新そよ風に乗って 〜憧憬〜
「それに、別にお前が気にすることじゃないだろ?」
何かが、音をたてて切れた気がした。
「気にすることじゃないなんて。そんなこと、あるわけないじゃないですか。高橋さんに、あんなところを見られちゃって……。しかも、本意じゃなかったのに……。確かに、私が佐藤君の胸を借りてしまったことは事実です。でも……でも、それは……だからいろいろ考えていて、思い過ぎてて魔が差したというか。だから、あんな行動に出ちゃったんです。寂しかったから……辛かったから」
言っていることが、支離滅裂だ。
高橋さんに、この思いを分かって欲しくて。ただ、それだけだった。
「俺は、そこまでお前に寂しい思いや辛い思いをさせてしまってたんだな」
高橋さん。
「それでも、高橋さんが好きだから……だから、耐えられるんです」
あっ。
自分から、また告白しちゃってる。
でも、今はもうそんなことはどうでもいい。ただ、高橋さんにこの気持ちを分かって欲しい。
「だったら何故、佐藤に自分から行ったんだ? そんな辛さに、耐えられなかったからじゃないのか?」
嘘。
見ていたんだ。
一部始終?
確かに、私から佐藤君の胸に額を付けてしまった。
高橋さんは、それを見ていたんだ。
「嫌味な言い方だが、また何時辛くなったり耐えられなくなってそうなるとも限らん。もしそうなった時、俺がまたその場面に遭遇しても、それでもお前は……」
「もうしません。もうしないですから……あんなことは。もう……絶対。絶対、しない私……」
「……」
まるで駄々っ子のような言葉に、高橋さんは暫く沈黙したまま煙草に火を付け、吸いながら私の顔を見ていた。
「お前と一緒に居ると凄く楽しいし、束の間でも仕事のこと等も忘れられることがあった。放っておけないしな。だから、今夜はお前と最初に行ったキャトルに行って、当時を思い出していた。お前と俺の原点みたいなもんだからな」
「高橋さん」
そんなことを思い出していたの?
「あの頃は、ただ純粋に毎日が楽しくて良かったんだよ。でも何処でどう歯車が狂ったのか。何時から、こんな風になってしまったんだろうな? 多分、それは俺がミサとのことを捨てきれないで煮え切らないからだったと思う。それが、いつの間にかお前を窮地に追い込んでしまっていたんだよ」
「そんなことないです」
高橋さんは、フッ……と笑いながら話を続けた。
何かが、音をたてて切れた気がした。
「気にすることじゃないなんて。そんなこと、あるわけないじゃないですか。高橋さんに、あんなところを見られちゃって……。しかも、本意じゃなかったのに……。確かに、私が佐藤君の胸を借りてしまったことは事実です。でも……でも、それは……だからいろいろ考えていて、思い過ぎてて魔が差したというか。だから、あんな行動に出ちゃったんです。寂しかったから……辛かったから」
言っていることが、支離滅裂だ。
高橋さんに、この思いを分かって欲しくて。ただ、それだけだった。
「俺は、そこまでお前に寂しい思いや辛い思いをさせてしまってたんだな」
高橋さん。
「それでも、高橋さんが好きだから……だから、耐えられるんです」
あっ。
自分から、また告白しちゃってる。
でも、今はもうそんなことはどうでもいい。ただ、高橋さんにこの気持ちを分かって欲しい。
「だったら何故、佐藤に自分から行ったんだ? そんな辛さに、耐えられなかったからじゃないのか?」
嘘。
見ていたんだ。
一部始終?
確かに、私から佐藤君の胸に額を付けてしまった。
高橋さんは、それを見ていたんだ。
「嫌味な言い方だが、また何時辛くなったり耐えられなくなってそうなるとも限らん。もしそうなった時、俺がまたその場面に遭遇しても、それでもお前は……」
「もうしません。もうしないですから……あんなことは。もう……絶対。絶対、しない私……」
「……」
まるで駄々っ子のような言葉に、高橋さんは暫く沈黙したまま煙草に火を付け、吸いながら私の顔を見ていた。
「お前と一緒に居ると凄く楽しいし、束の間でも仕事のこと等も忘れられることがあった。放っておけないしな。だから、今夜はお前と最初に行ったキャトルに行って、当時を思い出していた。お前と俺の原点みたいなもんだからな」
「高橋さん」
そんなことを思い出していたの?
「あの頃は、ただ純粋に毎日が楽しくて良かったんだよ。でも何処でどう歯車が狂ったのか。何時から、こんな風になってしまったんだろうな? 多分、それは俺がミサとのことを捨てきれないで煮え切らないからだったと思う。それが、いつの間にかお前を窮地に追い込んでしまっていたんだよ」
「そんなことないです」
高橋さんは、フッ……と笑いながら話を続けた。