新そよ風に乗って 〜憧憬〜
「吹っ切れたはずだった。ニューヨークで吹っ切れたはずの思いが、またミサと偶然再会して揺らいでしまったのも事実だ。でも、俺はお前のことも大事なのも確かで、気持ちの整理がつくまでは距離を置かせてくれとも言った。しかし、実際毎日のように会社では会っているわけだから、お前にとっては生き地獄のようなものだよな」
「高橋さん」
「だから、誰かにすがりつきたくなったのもよく分かる。それがお前の言う、偶々一時の迷いでそうなったのかもしれない。だが、男は勝手で狡いからそういう場面に遭遇すると、権利もないくせに妙に腹が立ったりもするもんなんだよ」
「腹が立つって……」
高橋さんに、聞き返してしまった。
「男のエゴだ」
男のエゴ?
「お前は、何も悪くないんだ。今までのことは、俺が全部悪い。中途半端に踏ん切りが付かないまま、お前に甘えてズルズル来てしまっていた。だから、もう……」
「やめて! もう、聞きたくない。その先は、聞きたくないですから」
「ちゃんと、よく聞け。まだ俺の話は、終わってない」
高橋さんが釘を刺すように言っていたが、そんな忠告には従いたくなかった。
「やめて! 聞きたくないです。 もう、たくさん。そんなこと……絶対聞きたくないから。これ以上、もう嫌……」
しゃがみ込んで、両手で耳を塞いだ。
哀しい言葉を突きつけられるのは、もう耐えられない。
「お前は、そうやっていつも人の話を最後まで聞かないんだな」
な、何?
見上げると、高橋さんが携帯用の灰皿に煙草の火を消して吸い殻を入れていた。
穏やかな口調の高橋さんの顔を、下からもう1度よく見た。
エッ……。
はにかんだように俯いて笑っていた高橋さんの顔が、みるみる寂しそうな表情に変わっていくように見えた。
高橋さん……。
こちらを見た高橋さんは、とても哀しい瞳をしているに、何故か私を優しく映している。
「分かった。それじゃ、おやすみ」
私の頭をそっと撫でると、高橋さんは運転席側へと歩いて行ってしまった。
「ま、待って下さい。高橋さん。ごめんなさい。何を……。もう1度、その先を教えて下さい。何を言おうとしたんですか?」
高橋さんが車のドアを開け、運転席に乗ろうとしている。
「高橋さん」
慌てて追い掛けた私の呼びかけに、高橋さんは乗るのをやめると、運転席のドアを挟んで私と向かい合った。
「さぁな。お前が出した、結論だ。これだけ聞きたくないと言われたら、俺はそれに従うまでだ」
「そんな……。高橋さん。待って!」
私の声などまったく無視して、高橋さんは車に乗って走り去って行ってしまった。
さっき、高橋さんは何を言おうとしていたの?
『だからもう……』 の先は、終わりにしようと言おうとしてた?
「高橋さん」
「だから、誰かにすがりつきたくなったのもよく分かる。それがお前の言う、偶々一時の迷いでそうなったのかもしれない。だが、男は勝手で狡いからそういう場面に遭遇すると、権利もないくせに妙に腹が立ったりもするもんなんだよ」
「腹が立つって……」
高橋さんに、聞き返してしまった。
「男のエゴだ」
男のエゴ?
「お前は、何も悪くないんだ。今までのことは、俺が全部悪い。中途半端に踏ん切りが付かないまま、お前に甘えてズルズル来てしまっていた。だから、もう……」
「やめて! もう、聞きたくない。その先は、聞きたくないですから」
「ちゃんと、よく聞け。まだ俺の話は、終わってない」
高橋さんが釘を刺すように言っていたが、そんな忠告には従いたくなかった。
「やめて! 聞きたくないです。 もう、たくさん。そんなこと……絶対聞きたくないから。これ以上、もう嫌……」
しゃがみ込んで、両手で耳を塞いだ。
哀しい言葉を突きつけられるのは、もう耐えられない。
「お前は、そうやっていつも人の話を最後まで聞かないんだな」
な、何?
見上げると、高橋さんが携帯用の灰皿に煙草の火を消して吸い殻を入れていた。
穏やかな口調の高橋さんの顔を、下からもう1度よく見た。
エッ……。
はにかんだように俯いて笑っていた高橋さんの顔が、みるみる寂しそうな表情に変わっていくように見えた。
高橋さん……。
こちらを見た高橋さんは、とても哀しい瞳をしているに、何故か私を優しく映している。
「分かった。それじゃ、おやすみ」
私の頭をそっと撫でると、高橋さんは運転席側へと歩いて行ってしまった。
「ま、待って下さい。高橋さん。ごめんなさい。何を……。もう1度、その先を教えて下さい。何を言おうとしたんですか?」
高橋さんが車のドアを開け、運転席に乗ろうとしている。
「高橋さん」
慌てて追い掛けた私の呼びかけに、高橋さんは乗るのをやめると、運転席のドアを挟んで私と向かい合った。
「さぁな。お前が出した、結論だ。これだけ聞きたくないと言われたら、俺はそれに従うまでだ」
「そんな……。高橋さん。待って!」
私の声などまったく無視して、高橋さんは車に乗って走り去って行ってしまった。
さっき、高橋さんは何を言おうとしていたの?
『だからもう……』 の先は、終わりにしようと言おうとしてた?