新そよ風に乗って 〜憧憬〜
「それでは時間になりましたので、これより今年度決算予測報告会、並びに来年度予算案についての会議を始めます。まず、始めに……」
それぞれの担当部署より今年度の決算予想の報告が行われ、どの部署も黒字よりも赤字の予測が殆どで会議室の空気は何となく重くなっていった。
「仕方ないという言葉は、好きではない。しかしながら、ここで諦めて振り返れば坂道を転がり落ちていくまで。退路を断って、今の時期は浮上への第一歩だと思って堪えて欲しい。否、踏みとどまって欲しい」
「しかし、今のままでは何時浮上出来るかも未知数です」
「ただ頑張れ、堪えろと言われても、それでは現場の士気は上がりません」
「そうですね。光明も見えないまま、闇雲に藻掻いたところで尚更溺れるだけなのではないですか?」
「元はといえば、営業がもっと売り上げを伸ばせないからこうなるんですよ」
「そうですよ。がむしゃらになって働けば、そもそも数字は付いてくるはずなんですから」
社長の言葉に対して、不満をぶつける取締役が後を絶たない。
「静粛に。静粛に。意見は、挙手をされてからお願いします」
議事進行役の総務部長が、マイクで声を張り上げた。
「はい」
「営業部長。どうぞ」
挙手をした営業部長が、立ち上がった。
「常に、矢面に立たされます営業から言わせて頂きます。我が営業担当としましては、日頃から売り上げ向上、何かにつけて売り上げ、売り上げと突き上げあれております。しかし、無い袖は振れません。先般、斬新な路線縮小を余儀なくされ、それでなくても苦しい台所事情なのに、これ以上売り上げを望まれましても非常に厳しいものがあります。ただでさえ人員を削減されてギリギリの状態でやっているのです。稼げない部署の方々も、もっと経費を削減する工夫をしていただかないと。幾ら売り上げを向上させても、湯水のように使われたらお手上げですよ」
そう言うと、営業部長は先ほど営業の売り上げについてクレームを言っていた取締役を睨み付けた。
「身内で足の引っ張り合いをしたところで、今期の数字を覆すことは出来ない。結果を重く受け止めるためにも、来期は同じことの繰り返しでは済まされない。各部署は、それ相応の予算案を今から発表してくれ」
社長は、議事進行役の総務部長に目で合図をした。
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