新そよ風に乗って 〜憧憬〜
遅くなってからお風呂に入るのが何となく嫌なのと、すっきりしたくて既に15時頃に入っていた。でも、何でもうお風呂に入ったって、高橋さんは分かったんだろう。
「石鹸の香りがする」
うっ。鋭い。
「帰ろう」
ひゃっ。
高橋さんが、私の肩を抱いて頭を私の頭にくっつけた。
車内もまだ寒かったので、フリースを肩から掛けたまま車に乗ると、高橋さんが車を発進させた。
4月とはいえ、まだまだ夜は冷える。まして、此処は標高が少し高いので尚更だ。
そんなつもりはなかったのに、高橋さんにそこまで言われてしまって、帰るに帰れなくなったというか、久しぶりに会えた安心感もあってそのまま高橋さんのマンションに来てしまった。
「ちょっと、シャワー浴びて来るから適当に座ってて」
「あの……」
「ん?」
「高橋さん。ご飯は、食べたんですか?」
行く前から気になっていたが、なかなか聞くチャンスがなかった。
「ああ。ランチが遅かったから、風呂から出たら適当に何か食べるよ。お前は?」
「私は……」
ランチにサラダとパンを少し食べただけだったが、正直あまりお腹は空いていなかった。
「1人じゃ寂しいから、一緒に食べよう」
「あの、でも私は……」
「食べよう」
高橋さん……。
「シャワー浴びたら、俺が作るから」
「えっ? じゃ、じゃあ、何か作ります」
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