新そよ風に乗って 〜憧憬〜
高橋さんはチラッとこちらを見たが、そのまま何も言わずにバスルームへと消えていった。
何も言わなかったってことは、OKってことだよね?
事後承諾でキッチンに入り、冷蔵庫を開けるとハムとたまごに目がいった。そして冷凍庫を覗くと白いご飯もあったので、それを使って……あと野菜室にタマネギも見つけ、もう時間も時間だったので、それらを使ってチャーハンを作ることにした。
どうして男の人って、シャワーだからかもしれないけれど、お風呂から出てくるのが早いんだろう?
タマネギを刻み始めた頃には、もう高橋さんがバスルームから出てきてしまった。
白いTシャツにいつもの短パン姿で、首にバスタオルを掛けながらそのままキッチンに入って来ると、冷蔵庫を開けて缶ビールを出してひと口飲んで調理台の上を覗き込んだ。
「ご飯、なぁにぃ?」
はい?
あまりにも聞き方が可愛かったので、下を向きながらにやけてしまい、少し間を置こうとタマネギを切りの良いところまで刻んでから顔をあげた
「チャーハンにしようと思っているのですが・、駄目ですか? もっと他に……」
エッ……。
右手に缶ビールを持っていた高橋さんが、左手で包丁を持つ私の右手首を掴んだので、驚いて高橋さんを見た。
「包丁を持ったまま、よそ見してると手を切るぞ」
「は、はい」
視線をまな板に戻して再びタマネギを刻んでいると、高橋さんは缶ビールを持ちながらカトラリー等を用意してリビングへ行ってしまった。
ふぅ。
高橋さんが直ぐ傍に居ると、どうしても緊張しちゃう。
調理の途中、野菜室にジャガイモがあったのを思い出して、タマネギの残りとハムの残りでポテトサラダを作ってチャーハンと共にテーブルに運ぶと、あっという間に高橋さんは食べ終わってしまったので、その早さに驚いた。高橋さんより量も少なかったのに、私はまだ半分も食べ終わっていない。やっぱり、男の人だなぁ。
「悪い。腹減ってたから、一気に食べちゃった」
そう言うと、高橋さんは悪戯っぽく笑った。
「ゆっくり食べていいぞ。俺は、ビール飲んでるから」
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