新そよ風に乗って 〜憧憬〜
口々に不満と罵声を高橋さんに浴びせていた取締役の面々だったが、社長の腹の据わった一声で静まり返った。
すると、その声に高橋さんは黙ってお辞儀をすると、席に置いてあったレジメではない手帳を手に取った。
「今から申し上げます内容は、書類に記すべき事項ではないと判断致しましたので口頭で述べさせて頂きますことをご了承下さい」
「重要なことだったら、書面で説明するのが筋だろう。それじゃ、このレジメは何なんだ?」
「そちらは、今年度の見込み収支決算報告書ですので、そちらの内容に関しましてはまた後ほどご説明をさせて頂きます」
「何なんだ。この会議の主題を後回しにするとは、呆れてものもいえない」
「開いた口が、塞がりませんな」
先ほど、ゴルフ談義に花を咲かせていた2人が、高橋さんをまるで目の敵にしているような口ぶりで嫌味を言っている。
「ものも言えないのならば、黙っているように。開いた口が塞がらないのなら、そのまま開けていてよろしい。遠慮は要らん。無駄な時間が減って助かる」
「しゃ、社長」
「も、申しわけございません」
「高橋君。続けてくれ」
「はい」
いったい、高橋さんは何を話そうとしているんだろう?
『これから、俺は道化師に成り切る』
それと関係しているの?
「LCC就航事業は、お陰様で当初のスケジュール通り、就航日に運航が出来る手はずで、あとは4月1日を待つのみとなっております。懸念されておりましたUS航空との金銭面での折り合いもつき、当社の出資比率も当初の予定通りの40%となりました。しかしながら、就航直前の此処に来て問題が生じる可能性が確実に出て来ております」
「確実に?」
思わず柏木さんが小声で呟き、同じように高橋さんのひと言にキーボードを打つ手が止まってしまい、私も顔を上げた。
「どういうことだ? 円安傾向の問題か?」
社長のその声は、何時になくきつい口調に聞こえ、取締役もお互いに顔を見合わせている。
「昨年より、経済事情は円高より若干の円安に転じております。ですが、この件については当初より織り込み済みです。しかしながら、ご承知の通りこの数ヶ月間で当社の最重要路線であります国際線の近距離路線に於きまして国家紛争が起こっております。それに伴い、近距離既存路線に於きましても搭乗者数がどの路線も減少傾向にあります。この件に関しまして予見することが出来ず、私の不徳の致すところでございます。大変申しわけございませんでした」
そう言うと、高橋さんは立ち上がって深々と頭を下げた。
高橋さん……。
すると、その声に高橋さんは黙ってお辞儀をすると、席に置いてあったレジメではない手帳を手に取った。
「今から申し上げます内容は、書類に記すべき事項ではないと判断致しましたので口頭で述べさせて頂きますことをご了承下さい」
「重要なことだったら、書面で説明するのが筋だろう。それじゃ、このレジメは何なんだ?」
「そちらは、今年度の見込み収支決算報告書ですので、そちらの内容に関しましてはまた後ほどご説明をさせて頂きます」
「何なんだ。この会議の主題を後回しにするとは、呆れてものもいえない」
「開いた口が、塞がりませんな」
先ほど、ゴルフ談義に花を咲かせていた2人が、高橋さんをまるで目の敵にしているような口ぶりで嫌味を言っている。
「ものも言えないのならば、黙っているように。開いた口が塞がらないのなら、そのまま開けていてよろしい。遠慮は要らん。無駄な時間が減って助かる」
「しゃ、社長」
「も、申しわけございません」
「高橋君。続けてくれ」
「はい」
いったい、高橋さんは何を話そうとしているんだろう?
『これから、俺は道化師に成り切る』
それと関係しているの?
「LCC就航事業は、お陰様で当初のスケジュール通り、就航日に運航が出来る手はずで、あとは4月1日を待つのみとなっております。懸念されておりましたUS航空との金銭面での折り合いもつき、当社の出資比率も当初の予定通りの40%となりました。しかしながら、就航直前の此処に来て問題が生じる可能性が確実に出て来ております」
「確実に?」
思わず柏木さんが小声で呟き、同じように高橋さんのひと言にキーボードを打つ手が止まってしまい、私も顔を上げた。
「どういうことだ? 円安傾向の問題か?」
社長のその声は、何時になくきつい口調に聞こえ、取締役もお互いに顔を見合わせている。
「昨年より、経済事情は円高より若干の円安に転じております。ですが、この件については当初より織り込み済みです。しかしながら、ご承知の通りこの数ヶ月間で当社の最重要路線であります国際線の近距離路線に於きまして国家紛争が起こっております。それに伴い、近距離既存路線に於きましても搭乗者数がどの路線も減少傾向にあります。この件に関しまして予見することが出来ず、私の不徳の致すところでございます。大変申しわけございませんでした」
そう言うと、高橋さんは立ち上がって深々と頭を下げた。
高橋さん……。