新そよ風に乗って 〜憧憬〜
そんな高橋さんはまったく余裕な感じで、苦しくなって離れたいのになかなか離してはくれず、もう限界の一歩手前ぐらいになるとそれに気づいているらしく、少しだけインターバルをおいてくれる。でも、それはほんの僅か何秒の世界で、大きく深呼吸している暇等与えて貰えない。完全に主導権を握られて、こんなに焦って必死になっている私を余所に、高橋さんは動じることもなく慣れていると思った。
そのうち、何だかとろけそうな気分になってきてしまい、ふわふわして体に力が入らなくなった。夢中で高橋さんについていくだけで精一杯だったが、何度も角度を変え、向きを変えて髪を掻き上げられたり、両頬を両手でなぞられたりしているうちに、いつの間にか高橋さんの体の上に乗っていることに気づいた。
恥ずかしくて、早く離れたくて首をあげようとしたが、後頭部を高橋さんの右手で押さえつけられ、左手で腰を押さえられているので思うように動けない。深いキスをしたまま、高橋さんの体の上にいるなんて。ふわふわした体と一緒に、どうかなっちゃいそう。このまま、もしかして……。
それでも、恥ずかしくて何とか今の状況を打破しようと藻掻いていると、高橋さんが自分の体を反転させて私の上になってくれたのでホッとしたのも束の間、体勢が変わっても唇は離れず、ずっと深いキスをしたままの状態だった。
何度か体勢を変えているうちに、高橋さんから借りて着ていたパジャマがダボダボだったせいもあって、動いた拍子に上着の裾が捲れ、高橋さんの右手がちょうど私の左の腰の辺りから脇腹にかけてなぞるように直に触れたので、飛び上がりそうなぐらい驚いて体をよじらせてしまった。
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