新そよ風に乗って 〜憧憬〜
その途端、体が硬直してしまい、それに気づいたのか高橋さんの右手は直ぐに私の体から離れ、それと同時に唇も離れたのでゆっくり目を開けると、間近に高橋さんの顔があった。
不可抗力?
それとも、故意的?
「どうした?」
呼吸が乱れて肩で息をしている私の左頬を、高橋さんが右手で包み込みながら優しく囁いた。
「ち、違うんです。そうじゃなくて……」
誤解されては困るので、高橋さんを見上げながら必死に訴えた。
「ん?」
高橋さんは、小首を傾げながらこちらを見ている。
「あの……ちょっとびっくりしちゃって、それで……」
高橋さんは、目を瞑るとまた直ぐ私を見た。
「フッ……。無理するな。第一、お前が熱っぽいのにする訳ないだろう?」
「そ、それは、その……」
「まぁた、お前。エロいことでも、考えてたんじゃないのか?」
うっ。
高橋さんが、目を細めながら疑いの眼差しを向けた
「そこまで、俺は飢えちゃいない。それに……」
高橋さんが、耳元に顔を近づけた。
「体、ふ・る・え・て・る」
ハッ!
嘘。
自分でも、分からなかった。
「背伸びして、俺に合わせなくていい。今は、自分を労れ」
「高橋さん……」
高橋さんが、私の髪をそっと撫でてくれた。
綺麗な高橋さんの長い指が好き。
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