新そよ風に乗って 〜憧憬〜
その優しい瞳も、偶に浮かべる野心的な表情も。難しい表情を浮かべながら、問題が解決した時に一瞬見せる涼しげな微笑みも。そんな高橋さんが、好きなんだ。
どうしたんだろう。キスをしながら、高橋さんの体温を感じて心が温まったからかな。体がふわふわして、魔法にでも掛かっているからだろうか? 何か、ずっとこうしていたい。今も、これからずっと先も。高橋さんの傍に居たい。
「私……待ってますから」
「ハッ? えぇっ?」
高橋さんが、仰け反るように驚いた表情で私の顔を覗き込んだ。
「私、今回の父のことで分かったんです」
「……」
「無理して忘れようとか、忘れなきゃいけないとか……絶対に、それは難しいことなんですよね。大切なものや思い出は、自然に受け入れられるようにならないと。それまでは、きっと何処かで無理をしていたり、我慢していたりすることがあるはずですから。だから私も……私も、高橋さんを待ってます。その……ミサさん……とのことを高橋さんが、自然に受け入れられるようになるまで。それまで私、待ってます。だから、お願いですから無理して忘れようとか、お願いですから我慢しようとか思わないで下さい」
お父さんのことで、少し分かった気がしていた。
高橋さんの過去に何があったのか、その辛さや哀しみ、心の傷がどれほどのものだったのかは知らないけれど、きっとそれは私がお父さんの死を乗り越えるようとするのと同じ気がする。
「フッ……。お前、お願い多過ぎ」
高橋さんが、はにかむように俯きながら微笑んだ。
高橋さん……。
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