新そよ風に乗って 〜憧憬〜
「LCC路線を我が社に取り入れる際、取り入れるか、否かを採択したのは紛れもない。此処にいらっしゃる方々なのではないですか?」
「開き直るのか!」
「開き直っては、おりません。事実を述べているまでです」
「何?」
取締役が興奮して思いっきり机を叩いて立ち上がったので、驚いて座っていた椅子の背もたれに体を引いてしまった。
「犯人捜しをして、楽しいですか? 犯人が見つかれば、その犯人を捕まえさえすればそれで解決するのですか? 犯人を捕まえた後は、良かった、良かったで手打ちになるのですか? その後、貴方達の気分は晴れるでしょう。そして、また馴れ合い、そこそこの報酬を貰い、ゴルフの話で盛り上がり、何の変わり映えのない平凡な日々が過ごせればいいのでしょう。会社の存続がかかっていようが、いまいが、普通に暮らせればいいのでしょう」
「黙れ!」
「それで、満足ですか?」
「いい加減にしろ」
「何かが起きれば、誰かのせいにしてやり過ごせれば、貴男方はそれで満足ですか?」
そう言うと、高橋さんは下を向いて大きく息を吸って前を向いた。
「貴男方を信じて後に続く、部下達はどうなるんですか? 路頭に迷っても、それは自分の責任ではないからいいのですか?」
高橋さん……。
「この場所で、押し問答していても始まらん。会社の存続云々、御託を並べて能書きばかり言っていて時間の無駄だ。昨日今日入ったばかりの新参者に、会社の何がわかる。今直ぐ、出ていってくれ」
酷い。
そこまで言われる筋合いも、言う権利もないはず。
「何なのよ……」
「矢島さん」
取締役達の興奮した怒鳴り声に掻き消されていたが、小声で呟いた言葉が柏木さんに聞こえていたらしく、柏木さんが私の腕をギュッと掴んだ
そして、おもむろにジャケットの内ポケットからペンを出して自分のパソコン画面をそのペンで指した。
何?
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