新そよ風に乗って 〜憧憬〜
見ると高橋さんという文字に目がいき、思わず画面に顔を少し近づけた。
【高橋さんは、俺が出席している会議でも知っている限り、いつもこんな風に会議の時は、集中砲火を浴びていることが多い。でも、その殆どが正論だから取締役達からしたら、目の上の瘤。何とかして、失脚させようと必死なんだよ。そのうち、自分等も抜かされる危機感から来る行動なんだろう】
そんな……。
知らなかった。
高橋さんが、会議でこんな状態にあるなんて初めて知った。
いつも会議に行ってくると言われて、行ってらっしゃいと普通に挨拶の言葉を返していたが、その交わしていた挨拶の先には、そんなことが待ち受けている会議だったなんて。ちっとも知らなかった。
こんな嫌な思いをしていたなんて……。
ハッ!
『ああ。これから、俺は道化師に成り切る』 って言っていた意味は、こういうこと? それで、あんなことを言ったの?
「人の話は、最後まで聞いたらにしたらどうだ?」
エッ……。
取締役から言われ放題言われていた高橋さんに、横から社長が口を挟んだ。
「前々から感じていたんだが、人の話を最後まで聞かずに自分の意見を押し通す。そうしてきたからこそ、我が社はここまでになってしまったんじゃないのかね? 他人の意見に耳を傾けず、ただ保身ばかりを考えてきたからこその成れの果てだったことをもう忘れてしまったのか? 膿を出すには、痛みを伴う。その痛みの原因を突き止めるには、多かれ少なかれ検査が必要だろう。それが難病であればあるほど手探りで、波もあり風も吹く。それ故に、順調に体力が回復するには時間と根気が必要だ。時に、振り出しに戻ってしまうことだってある。だが、そこで腐ってばかりはいられない。荒波を蹴散らし、風に立ち向かえる気力を持ってこそ一歩前に進めるというもの。今の君達を見ていると、治ると言ったじゃないか。どうしてくれるんだと、ただ医者の苦労も知らずに詰め寄っている患者やその家族にしか見えん」
「ですが、治ると言われたのに実際治らなかったら、それは医者の虚言にはならないでしょうか?」
「そうですよ。誤診ということだってあります。その責任は、やはり医者にあると思いますけど。違いますかね?」
何だか、嫌味を込めた言い方で気分が悪い。まるで、社長の揚げ足をとっているみたい。
「ならば聞く。君達が、もしその当事者になった場合、医者にそのように詰め寄れるのか? 他の病院から見放されていたとしても、その状況でもそう言えるのかね? 若しくは、たとえ誤診だとして訴えたとしよう。それで患者側が全面勝訴したとしても、その傷は癒えるのかね? 勿論、誤診などあってはならないことだ。人の命を軽々しく扱ってはいけないし、病状の軽い、重いで治療に対する姿勢の差別があってはならない。しかし、何処からも見放されても、救いの手を伸ばしてくれる医者が居るということは希望を持てるということにはならないのか? その救いの手を拒んで蔑んで、自分達は何を得られる? そこまで言うのならば、教えてくれ。どうしたら、その膿を出せる? 治せる? 全快する。どんな手立てがあるんだ。藁をも掴む思いで託している人間に、どうしたらそのような仕打ちが出来る。教えてくれ、森常務」
「それは……」
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