胡蝶ミラへのエクスプレス





 奥の小さな更衣室で服を脱いでいると、マリコ先輩は聞いたことのない不思議な鼻歌を歌い始めた。仕切ってあるだけの更衣室は、休憩室の天井と繋がっていて声が聞こえるのだ。

 これから先、心から好きになる人と果たして出会えるのだろうか。

 そう思える人が、ただ笑顔のこんな自分を、同じように好きになってくれるのだろうか。

 好きだと感じる人には、たまには泣いたり怒ったり、喧嘩とかも……してみたいな。変な感覚だ。

 マリコ先輩と業務に取り掛かると、お客さんが帰った席を拭いて空になった鉄板を両手にキッチンスペースに戻る。転ばないようにしないと……という過度な心配は、徐々に薄れていっていた。





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