胡蝶ミラへのエクスプレス
気まずいながらも笑ってくれる男子学生に、私も同じような笑みを返している時だった。
──一人、視線の奥から現れた人物を見て、一瞬そちらを見てしまう。
相手も私に気づいているが、話しかけることなく素知らぬ顔をして横を通り過ぎて行った。
越智 拓磨《おち たくま》。同じ学科で割とよく関わる輪にいる彼だが、直接二人で会話をしたのは数えるくらいだろう。
賑やかな輪にいるのに、越智君はいつもどこか違う場所を見ているように感じていた。