胡蝶ミラへのエクスプレス





「あさな……あのさ、会いたい人いなかったって、今言ったけどさ……」

 ちょこちょこちょこっと越智君の話をすると、あさなは持っていたシャーペンを机上に落として目を見開いた。

「……マジか、全っ然気づかなかった」

「ハハ、うん。ちょっと、そういうことがあって」

「えー拓磨やったじゃん、大喜びしたでしょ」

「大喜びかぁ」

「だってさあの人、ここのことめっちゃ好きだったよねー。ここだけに、無駄に気持ちが溢れてたもんなぁ」

 家に行って泣いたってことまでは言えなかったが、あさなは騒ぎ立てずに喜んでくれている。

 空気の温度が低くて、心地良い。





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