胡蝶ミラへのエクスプレス
──目が合った高梨先輩に軽く頭を下げると、私たちは言葉なくすれ違う。
五号館を出た先に越智君がいて、笑顔で手を振ると越智君も手を振りながら近づいて来た。
「ねぇ森高さん、今見てたんだけど、これ美味そうじゃない?」
画面を見せながら、一緒に食べに行こって楽しそうに話す越智君に、私は笑って何度も頷く。
「行こ、次の楽しみだね」
「なぁいつ行く? 早く行きたい」
「相変わらず、すぐに行きたがるねー」
「嘘、まさか行きたくないの?」
「行きたい、越智君と行きたい。ねぇねぇさっそくだけど、いつにする?」
越智君とちゃんと出会った一年後、秋の中庭で、朝一緒に作ったサンドイッチを頬張りながら、次の予定を立てるのが楽しくてたまらなかった。
もう、すべてが──
戻ることのない、恐ろしく気が遠くなるような遠い過去になっていた。
─了─