初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
「サングリアで良かったよね。久保、いつもこれだろ?」
「はい。ありがとうございます」

 たしかに、いつも決まってサングリアを頼む。

 そんなこと、覚えてくれてるなんて。
 この気配りの細やかさがモテる秘訣かな。

「美味しいんですよ、ここの」
「そう? ちょっと甘すぎるように思うけど」

 なんでこの人がいまだに独身でいるのか、うちの会社の七不思議の一つだ。
 特に独身主義だって話も聞いたことないし。

 
 わたしが席につくとすぐ、いつものバイトの女の子がお酒と料理を運んできた。

「ありがとう」
 室長が愛想良く微笑みかける。

 すると日頃、無愛想でニコリともしない彼女が顔を赤らめ、ワントーン高い声で「どうぞごゆっくり」と言って去っていった。

 へえ、今までそんなこと、一度も言ったことないのに。

 わたしは思わず吹き出した。
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