初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
「あの、室長にそんなふうに言ってもらえて、ものすごく光栄なんですけど」
「けど?」
「あまりにも急なお話すぎて……」

「もちろん、すぐに返事が欲しいなんて言わないよ。ゆっくり考えてくれればいいから」
「はい……」

 まだ困惑を隠せないわたしを見て、彼の表情が少し曇った。
「それとも考えるまでもないのかな? 久保はやっぱり……」

 室長の言葉に被せるように、わたしは断言していた。

「違います」 
 わたしの反応があまりにも早すぎておかしかったのか、室長はふっと口の端を引き上げた。

「まだ、『やっぱり』としか言ってないんだけど」

「あっ」
 しまった。これじゃ、そうだと言ってるようなものだ。

 室長はもう一度わたしの目をまっすぐ見据えた。

 彼の瞳はとても澄んでいて、すべてを見透かされそうで、わたしは思わず目を伏せた。

< 20 / 87 >

この作品をシェア

pagetop