初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 わたしは慌ててベッドから降りた。

「も、もう、帰んなきゃ。学校に行く前にシャワー浴びたいし」

 そそくさとコートを着て、カバンを手にして、ドアに向かおうとすると、都築に引き止められた。

「ちょっと待てよ。ドレス、完成したとこ、見たくねーのかよ?」

「あっ」
  彼は肘枕の姿勢のまま、窓際に置かれたトルソーを指さした。

「すご……」
 思わず声が漏れた。
 ここ数日の苦労の結晶、ビーズやスパンコールが朝の日差しを受けて、神々しく煌めいている。

 波のように光がうねって、作品の完成度が何十倍にも増幅していた。

「いけるんじゃね? グランプリ」
「う、うん」

 都築はよいしょと声をあげて起きあがると、そばに来て、右手を差しだし、笑った。

「サンキュ。久保がいなかったら、絶対完成できなかった」
 握りしめた都築の手は大きくて暖かくて……

 このまま、ずっと繋いでいられたら。

 その想いに、その切なさに、胃がせりあがってきて嗚咽を漏らしそうになるのを、わたしは必死に耐えた。
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