初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
「だって、コンペまでの間、もう何度も約束すっぽかされてますからね」
「うわ、ひどい彼氏だね」
「もう、あきらめてます。そういう人だって知ってるんで」

 ユキちゃんは苦笑混じりでそう言った。

 だいぶ都築に振り回されているんだろうな、彼女も。
 
 でも、マウント取ろうとしているんじゃないとわかっているけど、ユキちゃんの、長年連れ添った妻のような口ぶりはわたしをチクチクと苛んだ。

「可愛いね。ユキちゃん」
 後日、わたしが言うと「だろ」と都築は鼻の下を伸ばした。

 くそ、思いっきり蹴飛ばしてやりたい。

「野犬がマルチーズに手を出したって感じ」
「うっせー、誰が野犬だよ」
「ああ、オオカミか」
「余計、凶暴じゃん。こんなに純情な男をつかまえて」
「どこが」

 ユキちゃんのことなんて、ほんとは話題にしたくなかった。
 でも、一生懸命平気な自分を演じた。

 そうすることで、都築はただの友達だと自分自身に納得させるために。
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