初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 室長はにこやかにうなずいた。
 大人の色気を感じさせる、その笑顔で。
 
 そうか。みんな、これにやられちゃうのか。

 佐藤千隼(ちはや)室長、34歳。
 彼は社内外の女子たちに絶大の人気を博している。
 ちなみに、いまだに独身。

 今日もお気に入りのアルマーニをばっちり着こなしている。
 日本人離れした華やかな雰囲気を持つ彼には、このイタリアのブランドがとてもよく似合う。

 一昨年、異例の速さで第3プランナー室長に抜擢され、その後、次々とヒット企画を飛ばし、社内はおろか業界でも一目おかれる存在。
 
 わたしがこのプランニング室に入った当初、彼はチームリーダーだったので、プランナーのイロハを伝授してくれた恩人でもある。

 自分の席に戻り、メールチェックを始めると、さっそく室長からメールがきた。

 ――『El Topo』で待ってる。仕事終わり次第、来てくれ。

 『El Topo』はこの近くにあるスペイン・バルで、この会社の御用達だ。

 そこで合流してから都心の店舗に行くつもりなのかな。

 先月、恵比寿に直営の新店舗がオープンしたところだから、たぶんそこに行くんだろう。
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