初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 上を見上げたそのとき、急に酔いを感じてよろけた。

「きゃ」
「何、女みたいな声だしてんの」
「れっきとした女なんですけど」
「そうだっけ?」

 そうだよと言って、都築のお腹をパンチした。

「うっ、おい、やめろよ。腹のなかのもん、全部、お前にぶちまけるぞ」

「いやー」
 わたしは都築の手を振りほどき、声をあげて走りだそうとしたけれど、頭がくらくらしてその場にしゃがみこんでしまった。

「おい、大丈夫か?」
 いつになく心配そうな、都築の声。

「……うん」
「吐きそう?」
「ううん、平気……ちょっとクラクラして」

 彼はわたしの顔を覗きこんだ。
 
 そして、驚くほど優しい声で「ちょっとあそこに座るか?」とベンチを指さした。
「うん」
 都築に支えられてベンチに近づき、腰を下ろす。

「うわ、冷てー。やっぱ、寒みー。なあ、ちょっと、それ貸せよ」
 都築はわたしがぐるぐる巻きにしていたショールを取り上げようとする。

「やだよ。カッコつけてそんな薄着してるのが悪い」
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