初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 そんなウブで乙女チックなこと言ったら「柄じゃね〜」って、大笑いされそうだから、絶対言わないけど。

 だからわたしは彼の鼻をつまんで、言った。
「やだよ。酔っ払い」

 ほんの一瞬、都築は今まで見せたことがない、とても切ない、傷ついたような表情をしたけれど、すぐにいつもの顔に戻って、言った。

「だよな」
 そうして顔を見合わせて、笑った。
 ロマンチックなムードはあっさり立ち消えた。

 わたしは、都築が大好き。
 この世で一番キスしたい人。
 だから、間違っても冗談なんかでキスしたくなかった。

 でも、もしも……
 さっきの表情が都築の本心を表していたとしたら。

 そして……
 もし素面のときに告白されたら、そのときは……

 はっきり告げる。
 わたしも大好きだって。

 期待してはいけないと思いつつ、それからしばらくは都築に会うと鼓動が早くなって困った。

 でも数ヶ月後。

 あの夜のことは、やっぱり酔いに任せたほんの戯れだったと、はっきり思い知ることになった。


 専門学校を卒業してすぐ、都築とユキちゃんは結婚した。
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