初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 他の誰も、わたしをこんなふうに見ない。

 気恥ずかしいような、悪いことをしているような、複雑な思いに駆られる。
 これから話すことを、この人はどう受け止めてくれるのだろう。

「この間のお話、わたしなりにいろいろ考えました」

 彼は酒杯を傾けたまま、視線で続きを促した。

 深呼吸をひとつして、口を開いた。
「室長のお察しの通り、わたしは都築が好きです」

 わたしの言葉に、彼はかすかに眉を寄せた。
「それで?」
 その言葉に促され、わたしは話を続けた。

 都築に出会った当時のこと、彼を好きになったときのこと、片思いで終わったこと、そして、いまだに彼への気持ちを引きずっていることを。

 室長は時に頷きながら、耳を傾けていた。
 そして言った。

「話してくれてありがとう。君の気持ち、良くわかったよ」

 室長は滑らかな箸使いで、平目の刺身を一切れ、口に運び、それから尋ねた。

「で、つまり、僕には一縷の望みもないってことかな」

 彼はまっすぐわたしを見た。
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