初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
「室長のお気持ちは本当にありがたいのですけれど……こんなふうに都築への想いを引きずっている自分が、室長とお付き合いするなんて失礼じゃないかと」

「でも、それじゃ、君は一生、都築に囚われつづけるつもりなのかい。他の男を受けつけずに」
「仕方がないのかな、と思ってます」

 室長は酒杯を手にしたまま、下を向いて少し考えこんだ。
「たぶん……」
 杯を飲み干して、彼はもう一度、わたしに視線を合わせた。

「こういうことじゃないかな。生まれたばかりのひな鳥がはじめて見たものを母鳥だと思いこむように、君の心には初めて本気で好きになった都築がしっかりと根付いてしまった。だから消そうにも消せない」

「そうかもしれません」

「でも、それは果たして恋と言えるのかな。言ってみれば……呪縛に近い気がするけど」

「呪縛……それはまた物騒な言葉ですね」


 でも、確かにそうかもしれない。
 あの夜に閉じ込められたまま、一歩も外に出られていないのだから。


 彼はまた少し思案して、それから軽く頷くと、迷いのない声で言い放った。

「君の心に都築がいても構わないと言ったら?」

 えっ?
 どきっとして目をあげた。
「でも……そんな」
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