初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 その様子を見て、室長は苦笑した。

「ずいぶんビジネスライクだな」
「すみません。こういうの、慣れていなくて」

 彼は手を叩いて店の人を呼ぶと、お酒のおかわりを頼んだ。

「まあ、いいよ。君らしくて。なんにしても嬉しいな。さ、改めて乾杯しよう」

「はい」
 室長は表情を和らげ、いつもの様子に戻った。

「そんなに緊張するなって。こうして一緒に過ごす時間を持って、ゆっくり関係を深めていこう」
 すべてを包み込んでくれるような、温かい笑顔。
「はい。室長、ありが……」

 そう言いかけたわたしを彼は遮った。 

「ただし、ふたりのときは“室長”はなし。“千隼”と呼んでほしいな」

「そ、そうですね。会社じゃないんだし……」
 そうは言っても、なかなかすぐには切り替えられそうにないけれど。

「ごちそうさまでした」
「どういたしまして」

 引き戸を開け、暖簾をくぐって表に出ると、外は思いのほか暗かった。
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