初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
「何で都築がここにいんの?」

「何って、お前のとこの室長に呼ばれたんだよ。俺が選んだ素材じゃあ予算オーバーだって」
「もう、都築もほんと懲りないよね。それでいっつも室長と揉めてるのに」
「妥協はしたくないからさ。それにもしかしたら、今回は通るかもしれないじゃん」

「いや、それはないわ。ここんとこ売り上げ厳しいから」
「くそっ。一度でいいから、コスト度外視の仕事、やってみてーな」

 ぶつぶつ呟きながら、都築は室長の席に向かっていった。

「わあ、朝から都築さんを拝めるなんて、超ラッキー!」
 隣のデスクで麻央が浮かれている。
「あんた、都築担だっけ?」

「はい! 入社以来ずっとです。新入社員研修で都築さんが挨拶してくださったとき、あー、この会社に入ってよかったー、って心底思ったんですから。既婚者なのが残念だけど。でも、都築さんなら、6人目の女だろうが7人目だろうが、わたし的にはまったく問題なしですけど」

 ラインストーンで美しく飾りたてたネールで、ぽりぽりと頭をかきながら、麻央が言う。
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