初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 そんなふうに、ふたりでいるときの彼は、わたしをとことん甘やかす。

 一緒に過ごしていると、心も身体も蕩かされて、実体がなくなってしまいそうになる。

 その瞬間は、わたしのすべてが千隼さんで満たされていると感じる。
 
 それでもまだ、その気持ちを阻むものが、頑なに存在していた。
 まるで、氷にそのまま閉じ込められてしまった夾雑物のように。

 千隼さんと唇を合わせているとき、ふと蘇る、都築の言葉。

 ――なあ、キスしていい?

 わたしが心に抱いているのはあの日の都築の幻でしかない。
 それはわかっているのだけれど。

 忘れなくてもいいと、千隼さんは言ってくれたけれど。
 でも、このままでいいとは思えないし……


「よっ」
「うわ、都築」

 びびった。
 当の本人が目の前に突然現れて。

「何、幽霊でも見たような顔してんだよ。ちょうど良かった。お前のとこに行くところだったんだ」
「なんで?」

「久保に話したいことがあったんだよ。お前、24日なんか予定ある?」

「24日って、今月の?」
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