初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 千隼さんはニヤッとすると、背後からわたしの肩に手をおき、首筋に噛みつく真似をする。

「ち、ちょっと……」
 もう、千隼さん。悪ノリがすぎますって。

「ああ、もう、ヤバすぎて鼻血出そう。残念。スマホ持ってくれば良かった」
「冗談やめてよ。写真はNG」

「なんだ、久保、いつもとあんま変わんねーな」
 都築だった。

「女装させられんのかと思ってたけど」
「女装って何よ。あんたこそ、普段着じゃん。それ」

 都築はパイレーツ・オブ・カリビアンのジャック・スパロウ。
 ハマりすぎで、逆にコメントしづらい。

 いつもの調子でやり合っていると、ふと視線を感じた。

 千隼さんがいつもより少し険しい目つきでこっちを見ていた。
 すぐにいつもの穏やかな表情に戻ったけど。

「あー、もーこの会社、役者が揃いすぎてて、ほんとにツライっす」

「そういう君もなかなかイケてるけど」

「きゃー、都築さんにそんなこと言われたら、もう、今、命が尽きても本望」とジタバタしている。
 
 でも、麻央がいてくれて良かった。
 もし三人きりだったら、ちょっと居たたまれない。

 わたしは誰にも気づかれないように、ふっとため息をついた。
 
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