初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 千隼さんの、熱を帯びた舌に口腔を蹂躙される。
 むずがゆいような、居ても立ってもいられないような感覚に襲われ、わたしは彼の背に手を回してすがりついた。
 
 これまでで一番長いキスから解放されると彼は自嘲気味に呟いた。

「自分はもっと理性的な人間だと思ってたんだけど、違ってたようだ」

 千隼さんはわたしの耳たぶを軽く食み、それから首筋に唇を押しあててくる。

 湿ったその感触にぞくりと背筋が震えた。
「嫉妬したんだよ。都築に」
「千隼……さん」

「朱利が僕には見せたことがない表情をするからさ……ははっ、ザマないな。忘れなくていいなんて、カッコつけてたのに」

千隼さんは、ごめん、飲みすぎたようだ、と呟き、わたしから身体を離した。
「ごめんなさい」
「君が謝ることじゃない」

 かすかにざらついた声で、千隼さんは言った。

 ここで言わなければいけないんだ、本当は。
 
 都築なんて、もう関係ないと。
 わたしはあなたのことしか眼中にないと。
 
 でも、言えなかった。
 その場を取り繕っても仕方ないと、心のどこかで思っていた。
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