初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 結局、またあのときの二の舞になるんだろうか。
 千隼さんもやはり、わたしから離れていってしまうんだろうか。
 
 二次会会場の『El Topo』に向かう道々、千隼さんはすでに気を取り直していつもの調子に戻っていた。
 
 並んで歩きながら、彼は曇りひとつない晴れやかな声で話しかけてくれた。

「年末年始は何か予定ある?」
「家族と過ごすぐらいで、特には」
「良ければ、旅行しないか」
「旅行?」
「うん。おいしいものを食べて、ゆったり温泉に浸かって」
 そう言いながら、微笑んでわたしを見つめる。

 千隼さんは優しい。
 早く気持ちの整理をつけろと、なじられても文句なんて言えないのに。

 なんの不足があるというのだろう、彼に。
 あるはずがない。

 なのに、わたしはどうしても最後の最後で、彼の気持ちに応じきれずにいる。

 彼の、優しくて、少し哀しげな瞳の色に気づくたびに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 自分がそうさせているのだと、痛いほどわかっているのに、そのときのわたしは何もできなかった。

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