初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 都築の背中を追いながら着いた先は裏庭。

 古びたベンチはまだそこにそのまま置かれていた。

「ここって……」

 思わず立ち止まった。
 あのときの場所。

 なんといってもクリスマス・イブの夕方だ。
 みんな予定があるのだろう。
 そこに人の姿はなかった。

 都築はわたしより先にベンチに坐り、少し横にずれて場所を開けた。

 都築が何を考えているのかが掴めず、頼りない気持ちのまま、とりあえず腰をかけた。

 あの日は真夜中で、上空を見上げると都会とは思えないほど星が輝いていた。

 今は夕闇。西の空には、ほんの少しだけ昼間の名残も見られる。

 その違いはあっても、気持ちは瞬時にあの日に引き戻されていた。

 ――なあ、キスしていい?
 都築の声が頭のなかで響きだす。

「ほら、これ」
 渡されたのは使い捨てカイロ。

 ずいぶん用意周到だ。
 じゃあ、思いつきじゃなくて決めてたってこと? 

 ここに来ることを。

「朱利、覚えてる? この場所」
「えっ?」

 返事に困り、わたしはあいまいな表情でごまかした。

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