初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 覚えているも何も、鮮明すぎる記憶に、今まさに悩まされている最中だったけれど。
「めちゃくちゃ飲んで、ふたりで忍び込んだんだよな。コンペの日の夜中にさ」

 胸がドキンと高鳴ったが、とっさによくわかっていないフリをした。

「そう……だったね、確か……」

 その返事を聞いて、都築はわたしの顔を眺めた。
「お前、あの日、相当飲んでたからなあ。もしかして覚えてないとか?」

 それには答えず、わたしは反対に聞きかえした。
「都築のほうこそ覚えてないんじゃない?」

「いや」
 即座に否定すると、都築は確信に満ちた声で答えた。

「覚えてるよ。ちゃんと」

 ちゃんと、って?
 つまり……
 ちゃんと覚えているってこと?
 キスしようとしたことを。

 なんで、そんなこと言い出すんだろう。

 わたしはようやく熱を持ちはじめたカイロを、思わず握りしめていた。
「寒かったな、あの日。凍え死ぬかと思った」

 でも、ふたりで分け合ったショールのなかは天国みたいに温かかった。

 都築との距離が近づいた。
 わたしはそう思った。
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