初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
 扉が開くとすぐ、都築は操作パネルの角にわたしを押し込んだ。

 そして、押さえ込んだまま、閉ボタンを押した。

「どうしたの……」
 顔を上げると、都築の唇が降りてきた。

 そして都築の唇を感じた瞬間、7年の歳月はあっというまに無に返った。
 
 ずっと、望んでいた。
 これは7年越しの……
 紛れもないわたしのファースト・キスだ。
 
 熱情を注ぎ込むような口づけを一度解き、都築はさらに強くわたしを抱きすくめた。

 そして、再び、三たび唇を重ねてくる。
 身体の芯から喜びが湧き上がり、焦ったい気持ちに襲われる。

 7年の歳月を一気に埋めようかとするような、息をつけないほどの激しい口づけに翻弄され、思わず伸ばした手がボタンに触れた。

 ガクンとエレベーターが動き出す。
 都築は名残惜しげに唇を離し、額を合わせて掠れた声で囁いた。

「一緒になるか。裏切者に」

 わたしも同じ気持ちだった。

 できることなら、ふたりでこのままどこかに行きたい。
 誰もいない、ふたりきりになれる場所に。

 でも、わたしはそっと都築の胸を手で押した。

「そんなの無理だよ」

 抱えているものが多すぎる。
 都築もわたしも。
 
 それに、激情に流されて、愛に身を投じる年じゃない。
 
 そのぐらいの分別は持ち合わせていた。

< 85 / 87 >

この作品をシェア

pagetop