初恋の呪縛〜もしもあの時、キスしていたら〜
エレベーターが改札階に到着する。
 わたしは先に降りた。
 そのまま、無言で改札を目指す。

「朱利」
 
 呼ばれても振り返らなかった。
 ホームから発車を知らせるアナウンスが聞こえる。

「バイバイ、都築」

 振りかえり、それだけ言うと、わたしは階段を駆け下り、閉まりかけたドアをこじ開けるように、地下鉄に乗り込んだ。

 バイバイ、都築。
 
 心のなかで、もう一度そう告げた。

 わたしたちはたぶん表裏一体の間柄なんだ。
 都築が表で、わたしが裏。

 だから、向きあうことは初めから不可能だったのだ。

 それがわかった今、わたしはようやく都築から卒業することができる。
 
 吸い込まれそうに黒い車窓に映る自分は、ふっきれた顔をしていた。

 それはけっして強がりではなかった。
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