可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる
濁った水色の毛、熊のような姿だけど手足は蛇のような鱗に覆われ、長い3本のしっぽは常に動いている。



でも・・・



傷だらけのその魔獣を見て、ソソも私も構えていた身体を楽にした。



「お前、今日はどうしたの?」



ソソが優しく声を掛けると少し離れたところにいた魔獣がゆっくりと近付いてきた。
それに合わせるようにソソが両手を伸ばすと、魔獣はソソの両手に身体を擦り付けるように動いた。



「お腹減ったの?」



ソソの言葉に魔獣が小さく頷いた。
小さく・・・頷いたように見えた。



それを見て私はソソの為に準備をしていた握り飯とお肉を包んでいた葉を持って魔獣に近付く。



そしてそれをソソに渡すと、ソソが魔獣の口元に差し出した。



魔獣は大きな口をゆっくり開ける。
鋭い歯が二重に生えているその口の中を今日もじっくり観察していると、ソソが魔獣の口の中に握り飯とお肉を包んでいる葉を置いた。
前に握り飯とお肉を取り出したら口を閉じ、身体を震わせたことがある。
それからは葉のまま口の中に置くことにしていた。



「気を付けて帰るんだよ?
頬のケガ酷いね、大丈夫?」



ソソが優しくそう聞くと、魔獣は何も反応することなく口を開けたままゆっくりと森を抜ける方向へと歩き出した。
このままその向こう側にある“死の森”へと向かう為に。



長い3本のしっぽがユラユラと動いているのを眺めながら、ソソの隣に並びその魔獣の後ろ姿を眺める。



「村の人達大丈夫だよね?」



私がソソに確認するように聞くと、ソソが準備されていた布で素早く身体を拭いてから服を着た。



「“死の森”まで一応俺ついていく!!
・・・ルル、早く村に帰ってね!?
良くないモノまで寄ってくるとやっぱり嫌だから!!」



ソソがそう叫びながら魔獣の後を追い掛けていくと、魔獣はチラッとソソの姿を振り向き確認していた。



「あれ、更に言葉を学習してるよね・・・。」



ソソの言葉に魔獣が頷いた光景を思い出しながら私も急いで村へと走り出した。
チチに報告する為に。



10年前、私が5歳の時に初めてあの魔獣がこの村に現れた。
すぐに戦うつもりで男達が武器を手に取ったにも関わらずあの魔獣はお腹を出してその場に寝転がった。



普通の魔獣ではなかった。
チチが男達に待つように声を掛けると、魔獣はゆっくりと起き上がり男達に背中を向けた。
そして顔だけで振り向いてきて、そしてまた“死の森”へと歩き出そうとしていた。
その動作を何度も繰り返し・・・。



男達を“死の森”の中へと誘導した。



明らかに知能を持っていたらしい。
明らかに他の魔獣とは違っていたらしい。



チチの判断によりチチだけが魔獣についていった。
自分が戻らなかった時のことを次に強い男に託して。



あの魔獣と初めて会った時のことを思い出しながら、ソソのことも思い浮かべる。



「髪の毛、後で切らないと。」



そう呟いてから、狩りを終えた男達が集まる建物へと勢いよく入った。
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