可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる
どこにでも咲いている花、“死の森”にも咲いている花。
そんな花を俺に差し出してきて、俺は小さく笑いながらその花を受け取った。
「慰めに来てくれたの?」
聞いた俺にエリーは首を横に振った。
「じゃあ何だよ?」
いつもはエリーの行動が何となく分かるけれど、今日はよく分からない。
神経を研ぎ澄ましていないから分からないのかもしれない。
エリーが俺の胸に強引にヒヒンソウを押し付けてくるので、それには笑いながらそのヒヒンソウを受け取った。
そして、笑いながらそれを見下ろし・・・
「どんな場所でも強く強く強く、どこまでも強く生き抜ける人間に、か・・・。」
チチが毎日毎日毎日、何度も何度も何度も村の人間達に言っている言葉。
ヒヒンソウの花を見下ろしたらチチのその言葉が自然と思い浮かんだ。
“死の森”にも咲いている強い花だからかもしれない。
皇子として生まれたと知ったのに王宮に戻らないと言っている俺に、エリーがヒヒンソウの花を渡してきた。
グースですら“死の森”にはたまにしか帰らないくらいなのに、エリーは基本的には“死の森”にいる。
そんな魔獣しか持てなかった俺に、黒髪持ちの俺に、エリーは王宮へ戻れと言っているのだと分かる。
それが分かり、エリーにまた文句を言おうとした時、聞こえた・・・。
“死の森”の霧の中から人間の声が聞こえた。
「母さん・・・!!!!」
そんな叫び声が聞こえてきて・・・
更に、魔獣の鳴き声・・・ユンスの鳴き声が、それも何体もいるような鳴き声が聞こえてきて・・・
その瞬間・・・
俺よりも先にエリーが“死の森”へと走り出した。
俺のことをチラッと見たエリーの目で、分かった。
エリーが必死な顔をしていると。
必死な顔で俺についてこいと言っているのだと。
それを見て、本来の魔獣の姿に戻ったエリーの後ろ姿に続いた。