可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる
「エリー・・・!!!
チチを呼んできて・・・!!!」



さっきまでエリーが立っていた場所に視線を移すと、裸の女がインソルドの方を指差しながら「行った!」と答えてきた。



それに頷きながらルルに視線を戻し、ルルが着てきた真っ赤に濡れている服を両手で破った。



そして、ルルの身体を見て・・・



思わず息を飲んだ。



ルルの身体は胸から下腹部まで深い傷が5本もある。
そこからは真っ赤な血が噴き出すように溢れてきていて、俺は両手でその傷を強く押さえる。



「今チチが来るから。
もう大丈夫だからな。」



震える口も震える声も必死で我慢し、普通に笑いながら普通の声でルルに伝えた。



ルルは小さく笑いながら俺を見詰めていて、そして・・・



「こんど、は・・・まに・・・あった・・・」



そんなことを呟き・・・



そして・・・



そして・・・



「ルル・・・っっ!!!!」



俺は慌ててルルの名前を呼んだ。



ルルの身体から光りがどんどん消えていくから。



「ルル・・・っ!!!
ダメだよ・・・!!死ぬな・・・っ!!」



大きな声で叫ぶけれど、ルルのその目はもう俺を見ていないような気がする。
小さく笑いながらも目の焦点は合っていないように見える。



ルルの身体から光りが消えていくのにこの両手は大きく大きく震えていく。



「ルル・・・っ!!!
ルル・・・っ!!!!」



ルルのことを呼び続けながらもう片方の手でルルを抱き上げ、俺の胸にルルを抱いた。



「俺、行くから・・・っ!!!
王宮に行くから・・・っ!!!
それで16になったらルルを迎えに行くから・・・っ!!!
だから待っててよ・・・っ!!!!
だから死ぬなよ・・・っ!!!!」



俺の叫び声にルルは小さく笑い続けるだけで、何も言ってくれない。
首も動かしてくれない。



それにはこの目から大量の涙が流れてきて、ルルの顔に次々と落ちていく。



もう微かに残っているだけのルルの身体の光りを確認し、俺は呼吸を整えながらルルに伝える。



まだ聞こえているかも分からないけれど、きっと聞いてくれていると信じて伝える。



「次の人生で俺と結婚して、ルル。」



そう伝えてから、俺はすぐそこに咲いていたヒヒンソウの花を取ってルルの右手の上に置いた。
いつもナイフを握っていた右手の上に。



「求婚なのにヒヒンソウの花でごめん。
次の人生では美しい花を持って求婚しに行く。
黒髪ではなく白に近い髪の色を持って。
ルルと最初から最後まで一緒にいられる地位を持って。
必ず迎えに行く、必ず、必ず迎えに行くから・・・」



俺が渡したヒヒンソウの花を握ってはくれないルルの右手を見て俺はもう1度そのヒヒンソウを手に取り、それからルルの胸の上に置いた。



それから小さく笑い続けているルルにお願いをする。



「俺が迎えに行くまで、他の男の花は受け取らないで。」



微かに光るだけのルルの身体をこの胸に抱き締め、動かないルルの右手を俺が手に取り、ルルの胸の真ん中に置いたヒヒンソウの上にのせた。



ルルの右手の上に俺の手も重ね、最後にもう1度伝える。



「俺と結婚して、ルル。」



そう伝え・・・



そう伝えて・・・



俺は、ゆっくりとルルの顔に自分の顔を下ろしていった。



もう光りが完全に消えそうなルルの顔に。



小さく笑い続けているルルの顔に・・・。



顔も真っ赤な血で濡れているルルの顔に・・・。



そして・・・



ルルの唇に、俺の唇を重ねた。



たまに村で挙げられる結婚式での誓いのキス、そしてこの前の夜に見たきょうだいの男と女がしていたこと。
今の俺とルルがしたとしても悪いモノではきっとないから。



だから、俺はルルにキスをした。



少しだけ目を閉じてキスをして・・・



次に目を開けた時、ルルの光りは消えていた。



完全に消えていた・・・。



人生で初めてしたキスは、血の味がした。
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