可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる
気分が良くなりながら宮廷の中を歩いていく。
すれ違う多くの者達が私のことを怪訝な顔でチラチラと見ている。
聖女を見る目付きとは思えないような目で。



そして・・・男からは舐めるような目付きも加わっている。
貴族の男はこんなに軟弱な顔と身体を好んでいることに王宮に来てから驚いた。



厭らしい男達の視線を無視しながら私は宮廷の中を歩き続けた。



歩き続け、歩き続け、歩き続けて・・・



1階の端の方にある小さな扉の前で何気なく立ち止まった。
あまりにも古い扉だったから。



「この扉は?」



「そちらから小さな方の中庭に・・・中庭といいますか物置小屋といいますか、そういった物がある空間に出られます。」



「ふ~ん・・・。」



「え・・・!行きますか!?」



「うん、今までは皇太子妃教育ばっかりで宮廷の細かいことは何も知らないから。
ミランダから少し情報を引き出してたくらいで。」



そう答えながら古い扉を開けた。



開けた先にあった物はケロルドが言った通り中庭と呼べるような場所ではなかった。
雑草は伸び放題で大きめの小屋が3つあるだけ。



小屋の扉を開けてみようとしたけれどしっかりと鍵が掛かっていた。
1つ目も2つ目も、そして3つ目も。



それを確認してからまた扉に戻ろうと振り向いた時、伸び放題の雑草の向こう側にまだ空間が少しだけ広がっていることに気付いた。
そして建物を背中に小さな男の子が座り込み何かをしている姿にも気付いた。



その男の子の方に近付いていく途中で、その男の子は大量の芋の皮を剥いているのだと分かった。



「凄い量だね、ここの貴族達に出す料理の芋?」



私が声を掛けると男の子はビクッと大きく身体を動かしていた。
そして恐る恐る目の前に立った私のことを見上げた。



幼い顔をした男の子だけど良い目をしているとすぐに分かった。
そんな男の子が凄く慌てた様子で立ち上がり、深く頭を下げてきた。



「コックになる為に下働きをしているカルベルと申します!
本日は近衛騎士団が遠征から戻ってくる為、芋の皮を剥いていました!」



「立派な対応が出来る男だね。
何歳なの?」



「10歳です!」



頭を下げたままのカルベル。
インソルドに置いてきたソソのことを思い出しながら自然に優しい声を出した。



「8歳でもここで仕事が出来るんだね。」



「普通なら出来ませんが、母が宮廷で働いていますので僕も少しでもここにいたいと思い、無理を言って下働きをしています!」



「・・・こんな所にいたいんだ。
お母さんのことが好きなんだね。」



「それもありますが、父も宮廷で働いていたと聞きましたので、父がいたというこの場所に少しでもいたいと思いました!」



「お父さんはもうここでは働いてないのに?」



「はい!父は20年程前に亡くなりました!」



「20年って・・・え、カルベルは10歳なんだよね?」



「母が僕を拾い養子として育ててくれています!!」



その話を聞き、私は頭を下げたままのカルベルの頭の上にソッと手を置いた。



「私も養子なんだ。」
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