可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる
「カルティーヌ姫、お気をつけくださいね!」



城壁の最上部、胸壁の凸部分に立ち天まで昇るように渦巻いているような霧を眺める。
“死の森”の霧を。



ここから馬で約3週間掛かる位置にある“死の森”、それでもここから見るとすぐ近くにあるような錯覚に陥るほど向こう側全てが霧に覆われている。



「太陽が昇る瞬間を見ることが出来ない王国・・・。」



沈む太陽を背中にしながらそう呟いた時・・・



右側の空からバサバサと大きな音が近付いてきたのに気付いた。
胸壁の上からそっちを見てみると、魔獣の群れだった。



数は目視で約600体、魔獣であるグースの群れ。
真っ黒な身体を持つ巨大な鳥のような姿、豹のような足が4本あり、翼は個体によって様々な色をしている。



そんなグースの群れがこの広大な城壁に向かって飛んでくる。



目視してから1秒も経たないうちにこの城壁の最上部はグースの群れで埋め尽くされた。



「カルティーヌ姫、大丈夫でしたか!?」



ケロルドが私の前に立ちそう聞いてきたのでこれには苦笑いをする。



「何度も言うけど、私は死なない身体だからね?」



「そうですけど!!!
ステル殿下からは、危険なモノから命に代えてでもカルティーヌ姫をお守りするように命令されていますので!!!」



「そうだったんだ・・・。」



こんな見た目になっているからか、ステル殿下は私を軟弱な女だと思っているらしい。
死にはしないけれど、自分の身も守れないような軟弱な女だと。



それが分かり少しだけ泣きそうになった。



「おい!!ここは貴族の御令嬢が入っていいような場所ではない!!!
お前は第2騎士団の奴だよな!!?
何故ここに貴族の御令嬢を入れた!!!
グースが興奮しているから早くここから出ていけ!!!」



50歳くらいに見えるけれど逞しい身体、鋭い目付きの男が細いであろう目を更に細めて私とケロルドが立っている胸壁の下まで歩いてきた。



「モルダン近衛騎士団長、申し訳ありません!!
すぐに立ち去ります!!
・・・カルティーヌ姫、行きましょう。」



「行かない。
近衛騎士団を待ってたから。」



日が沈む頃、近衛騎士団はここにグースで降り立つとカルベルから聞いていた。
だから私はここで近衛騎士団を待っていた。



国王に最も忠誠を誓う必要がある騎士団、例え何があっても国王を守る為に存在している近衛騎士団であるモルダンという近衛騎士団長を胸壁の上から見下ろす。



「隣国との小競り合いの応援に5ヶ月も近衛騎士団の半数を遠征に行かせていたなんて笑い物なんじゃない?
そもそも誰の命令で遠征に向かったの?
近衛騎士団は国王の命令でしか動いてはいけないはずでしょ?」
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