婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「侯爵令嬢?」
気が付くと、ガブリエラさんが心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。
「はっ、はい!」と、慌てて返事をする。
「どうしたの? なにか悩みでも?」
「いえ……その、大丈夫です。本当になんでもありません。心配を掛けてごめんなさい」
「ならいいけど……。ねぇ、侯爵令嬢。なにか困っていることがあればいつでもあたしに言ってね? 伯爵も心配していらっしゃるわ」
「はい……ありがとうございます……!」
スカイヨン伯爵もガブリエラさんも大使館の方たちも、いつもわたしに良くしてくださっている。
それは身分に由来するものかもしれないけど、わたしは彼らにとても感謝をしていた。
だからアンドレイ様のご命令とはいえ、ここに来た本当の目的を打ち明けないのは……胸が少し傷んだ。
ガブリエラさんと相談して、鉱山潜入のときと同じように訓練生活に慣れるまでは諜報の仕事はお休みすることにした。
このままでは軍人として不合格の烙印を押されて、いつ隊から放り出されるか分からない。
だからまずは目の前のことに集中。訓練を通じてローラント国軍がどのように戦っているのかも知ることができるしね。
そんな厳しい生活が続く中、
「よう、親友!」
出し抜けに想定外の人物から声を掛けられたのだ。