婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
気まずい空気がびゅうびゅうと、つむじ風のように渦巻いていた。
わたしはオドオドと視線を泳がせて、レイはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながらこちらをじっと見ていた。
少しの沈黙のあと、彼が口火を切る。
「あっれぇ~っ? 宝石産業の商人になるんじゃなかっけーっ!?」
「っ……!」
来たわ。
彼の性格からして、絶対に言ってくると思った。
相変わらず意地の悪い人ね。なによ、この仰々しい言い方は。
と、とりあえず上手く言い訳をして、ここは乗り切らなければ……!
「あ、あぁ……。その……しょ、商人はオレには向いていないみたいでさ! だっ、だから、別の道を模索しよう、と…………」
我ながら苦しい言い訳に、わたしの声はだんだんと小さくなっていった。早く……早く、この場から逃げたい!
レイはまだニヤニヤと笑いながら、
「それで、今度は兵士、ねぇ?」
「けっ、計算が苦手だったんだよ……」
「鉱山の地図を作成したときの情熱はどこに行ったんだ?」
「……オレは熱しやすく冷めやすいんだ」
「へぇ~~~?」
「っつ…………!」