婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
二の句が継げなかった。顔がみるみる上気していくのが分かる。正直、忸怩たる思いでいっぱいだった。
仮にわたしのでっち上げた話が本当だとしても、なんて根性なしの軽薄な人物なのかしら。
レイは地図作成の手伝いをしてくれたし、おまけに鉱山の内部資料まで持ってきてくれたし……穴があったら入りたい…………!
「わ……」やっと声を絞り出す。「悪かったよ……。オマエの善意を仇で返すような真似をして……その、ごめん…………」
「別にいいんじゃないか」
「えっ?」
彼の意外な返事に、わたしは目をぱちくりさせた。
「君が恥じることはないし、僕に遠慮することもない。君の人生なんだし、好きにしたらいい。自分で決めたことなんだから、堂々としていればいいんだ」
「……………………」
わたしは驚きのあまり、茫然自失と立ち尽くした。
一瞬、レイの言っている意味が分からなかった。だって、そんな言葉、他人から初めて言われたから。血の繋がった両親からも、一度も聞いたことがない。
だから彼の言葉の本質が、わたしには理解できなかったのだ。
わたしは生まれたときからアンドレイ様の婚約者で、生まれたときからその生涯を決められていて……それが、好きにしていいですって?
好きにする、ってどういうこと? 一体なにをすればいいの?