婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
そこには人、人、人……が倒れていて、辺りには赤い血の海が広がっていたのだ。中には腕だけが行き場を失ったように転がっていて、生き物みたいにピクピクと――、
「おっと。怪我するぞ」
あまりの凄惨な光景にショックで気を失いそうになったわたしの身体を――レイが受け止めてくれた。
「レ……レイ…………無事で……よかっ…………」
視界が霞む。生まれた初めて見た「戦場」に動揺を隠せなくて、込み上げてくる吐き気を必死で押さえた。
「見ないほうがいい。ここは危険だ」
レイはわたしの肩を掴んで持ち上げるようにして、この地獄のような場所から連れ出してくれた。