婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜


「ありがとう。それなのに責めるような真似をしてすまなかった」

「いいや」わたしはブンブンと首を振った。「命令違反をしたのは事実だから。レイの言うことはもっともだよ。ごめん……」

「仕方ない。命令よりも大事なものはある」

「さっきと言っていることが矛盾してるじゃないか」と、わたしは思わずくすくすと笑った。

「時と場合によるんだよ。都合の良いほうが正解だ。――どうだ、少しは落ち着いた?」

「あ……う、うん」

 いつの間にか不思議と気持ちはだんだん穏やかになっていった。温かい飲み物と、なにより彼とこうやって会話をしているからだろうか。
 わたしはポツポツと口を開く。

「その……生まれて初めての戦場だったんだ。今日は小規模な戦いかもしれないけど……わ、オレにとっては衝撃的で…………」

「本物の戦場は、今日とは比べ物にならないくらいの死体が出る」

「だ、だよな……」

 にわかに彼の眼光が鋭くなった。

「だが、それは君たちがこれからやろうとしていることなんじゃないのか?」
< 119 / 303 >

この作品をシェア

pagetop