婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「ありがとう。それなのに責めるような真似をしてすまなかった」
「いいや」わたしはブンブンと首を振った。「命令違反をしたのは事実だから。レイの言うことはもっともだよ。ごめん……」
「仕方ない。命令よりも大事なものはある」
「さっきと言っていることが矛盾してるじゃないか」と、わたしは思わずくすくすと笑った。
「時と場合によるんだよ。都合の良いほうが正解だ。――どうだ、少しは落ち着いた?」
「あ……う、うん」
いつの間にか不思議と気持ちはだんだん穏やかになっていった。温かい飲み物と、なにより彼とこうやって会話をしているからだろうか。
わたしはポツポツと口を開く。
「その……生まれて初めての戦場だったんだ。今日は小規模な戦いかもしれないけど……わ、オレにとっては衝撃的で…………」
「本物の戦場は、今日とは比べ物にならないくらいの死体が出る」
「だ、だよな……」
にわかに彼の眼光が鋭くなった。
「だが、それは君たちがこれからやろうとしていることなんじゃないのか?」