婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「えっ……?」
わたしは目を見開いて彼を見た。彼は射抜くような視線をまっすぐに注いでくる。
しばらく無言で見つめ合った。
わたしたちが、これからやろうとすること……?
彼の言わんとすることが即座には理解できなかった。
「いや……」レイは顎に手を当てて少し思案してから「違うんだ。その……君は兵士だろう? これから君たち兵士は戦場に出る。オディオにその覚悟はあるか、ってことだ」
「あっ……!」
鈍い頭がやっと彼の意図に追い付く。そして同時に、自身の答えも出ていた。
わたしには戦場で人を殺すことなんて……絶対に出来ない。
無言の時がしばらく続く。
そして、
「答えは出ているようだな」と、レイがふっと笑った。
「あぁ」わたしは首肯する。「オレが甘かったよ。戦とは人の生死が掛かっている。命を賭けて戦うんだよな。一番肝心なことがオレには見えていなかった。……明日にでも除隊するつもりだ」
「そうか。たしかに君には戦場は似合わないな」
「そうだな……浅はかだったよ…………」
頭が痛かった。愚かな自分が恥ずかしい。
本当にわたしは戦場を舐めていた。軽い気持ちで軍隊に潜入して、一丁前に間諜気取りで。
でも、本当は視野の狭いただの箱入り娘だったわ。