婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

19 軍隊生活⑤ 〜疑惑のはじまり〜

「……………………」

 言葉が出なかった。
 身体が強張って、辛うじて動く瞳だけで何度も何度もその文字を追った。
 穴が開くくらい眺めても、そこに記されている文字は変わらない。

 たしかに「アンドレイ・アングラレス」と書いてある。ご丁寧に「王子」の称号まで。

 やっと落ち着いてきた心に再び鋭い棘が深く潜り込んでいく。頭が真っ白になって、気を失いそうになった。

 アンドレイ様が違法競売を?

 そんなの、信じられないわ。たしかに彼は美しい物を蒐集するのが趣味だけど、まさか犯罪に手を染めているなんて……。
 だって、権力を持つ王族や高位貴族こそが一番法を順守しないといけないんじゃないの?
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