婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
脈がどくどくと激しくなるのを感じた。それは、嫌でも思い当たる節があるからだ。
なぜなら、そのブローチは……シモーヌ・ナージャ子爵令嬢がいつも身に着けているものだったのだ。
精緻な細工で、まるで本物の蝶々のように今にも飛び立ちそうなブローチ。淡いピンク色が、同じく淡いピンクブロンドの彼女の髪に見合って、とっても素敵だったのを覚えているわ。
以前「とっても素敵であなたによく似合うわね」と褒めたら、彼女は頬を染めながら「亡くなったお祖母様の形見なんです」って遠慮がちに言っていたっけ。
それが……盗品?
しかも、アンドレイ様が購入した…………?
限界がきた。
わたしの頭は無理矢理に物を詰められた鞄みたいに破裂しそうになって、次の瞬間、それらが急速にしぼんで消えていくように、わたしの意識は遠のいた。