婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜


「…………!」

 わたしは目を見張った。そんなことを言われたのは初めてだったから。
 侯爵家の侍女たちはただ黙々と仕事をこなすだけで、装いに対するアドバイスなんて一度もくれたことはない。

「あっ、あの、違うんです! お気を悪くさせたらすみません! ただ、お嬢様は可愛いよりクールなお顔立ちなので、濃いめの色にシャープなデザインのほうが引き立つと思って……」

 アンナは慌てふためいて、ペコペコと頭を下げる。

「別に構わないわ。正直に言ってくれてありがとう。実は言うと……わたしもこういった色やデザインはあまり好みではないの」と、わたしは肩をすくめた。

「えっ? じゃあ、どうして……?」

「…………」わたしは少し黙り込んだあと「婚約者の王子殿下がこういう甘めのスタイルが好きなの」
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