婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
――トン、トン。
そのとき、部屋をノックする音が聞こえた。
「侯爵令嬢? 準備はできましたか? そろそろ出発しますよ」
スカイヨン伯爵の声だ。
「馬車で待っていますね」
今日は王宮で王妃殿下の誕生日パーティーが開かれる。
わたしたち大使館に勤める貴族たちも招待状をいただいていた。今夜は伯爵のエスコートで参加することになっているのだ。
「あ、はい! 今参りますわ」
わたしはスカイヨン伯爵のエスコートで馬車に乗って、王宮へと向かった。
アンドレイ様以外の殿方にエスコートをされるのは初めてだった。
わたしのことを引っ張ってくださる彼とは違って、スカイヨン伯爵はわたしのペースに合わせてくれる緩やかなエスコートだった。人によってやり方も異なるのね。
いつもはアンドレイ様の動きを読んで動いていたけど、伯爵は逆にわたしの動きを尊重してくれて不思議な感覚だったわ。