婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜



「その……」

 乗車からしばらくして、伯爵が遠慮がちに口を開いた。

「どうかされました?」と、わたしは首を傾げる。

「いえ……その……女性に対して無礼を承知で申し上げますが……。そのドレスはあなたの好みで?」

 わたしははっとして彼を見た。

「やっぱり、変でしょうか? さきほどアンナからも言われたんです。もっと大人っぽいデザインのドレスを着たらどうか、って」

「いえ、変ではないのです。十分着こなしていると思います。ですが、私もアンナと同意見で、あなたをもっと魅力的に見せるようなドレスは他にあると思うのです。不躾なことを申し上げてすみません」

「そんな、どうぞお気になさらず。むしろ、はっきり言ってくださって感謝しますわ。わたしの持っているドレスは全てアンドレイ様の好みのデザインのもので、なにも考えずに着せ替え人形のように着用していただけですから。客観的な意見はとても参考になります」

「そうですか……。そうだ、今度の休日にでもドレスを買いに行ってはいかがですか? 王子殿下の目の届かないときくらい、あなたの好きな装いをしても良いと思うのです」

「ふふっ、アンナからも同じことを言われましたわ。そうですね、今度ガブリエラさんを誘ってショッピングに行こうかしら?」

「それはいい。彼女は王都のいい店を知っているはずです」

「はい。ガブリエラさんはお洒落ですからね。彼女からも是非アドバイスをいただきたいわ」
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